家庭医療専門医になるためにはポートフォリオの提出が必要になっています。ポートフォリオとは簡単にいうと実績レポートのようなもので、困難な症例をいかに苦労しながら学びにつなげていったのかを記載します。
このポートフォリオは専門医試験で重要で、勉強会が開かれたりしています。
この勉強会でポートフォリオの評価をすることがあります。エントリー項目で「生物心理社会モデルを利用した症例」というのがあります。この項目で時々、この生物心理社会モデルを3つの円で「生物」「心理」「社会」とわけて、重なるように描写されているのを見ることがあります。
わたしはこれはちょっと誤解しているなと考えています。
もともと生物心理社会モデル(bio-pshycho-social model: 以下BPS)はEngelという人が考えたものですが、私にはきちんとした文献はみつけられませんでした。治療成績の良い医師を分析するとこのモデルを利用していたというものだったと解釈しています。
『家族志向のプライマリ・ケア』(S.H.マクダニエル著)にも載っていますが、これには3つの円では表現されておらず、宇宙から原子まで矢印でつながっているように書かれています。
宇宙↔地球↔国↔地域↔家族↔個人↔臓器↔細胞↔分子↔原子
私も家庭医療の専攻医だったころにポートフォリオの勉強会でこのような3つの円の図を書いていました。しかし、指導医からイメージとは違うと言われ、確かに違うよなと思うようになりました。どちらかというと、全部が連なっているような『家族志向のプライマリ・ケア』に描かれているようなイメージが近いかなと思っていました。
でも、偉い先生方の表現に反抗するようですが、今はこれにも違和感を覚えています。
直線的なつながりではなく、どちらかというともっと包括的な見方のように思うのです。
社会(単純化のために宇宙や地球もここに含まれるものとする。)の中に生物が内包されていて、さらにその中に心理が内包されているようなイメージです。なので、心理は臓器と同等かやや上位くらいのイメージです。
このイメージでいくと、生物にもっとも影響を及ぼすのは社会になります。
実際に社会の変化で人間の行動は変ります。行動がかわれば健康状態もかわります。
例えば、たばこ税があがれば禁煙する人は増えます。富の格差がひろがれば平均寿命は縮まります。それは一個人の行動以上に個人に影響をもたらします。
そして、心理はなぜ生物の内側なのかというと、心理なくしても生物たりうるからです。逆に生物の部分がなくなれば心理は存在できません。
それは逆方向に行くと地球がなければ、人間は存在できない(今のところ)というような感じです。
つまりBPSを利用した問題解決とは、かなり包括的というか、もっと全体的な見方をしているということだと考えます。
それは季節の移ろい、太陽と月の周期、社会情勢、文化、風俗、医師である自分自身も含めた患者さん周囲の状況、そして患者さんの行動や健康にどう影響しているか?心理にどう影響しているのか?経験を含む心理あるいは他臓器と健康・行動との相関はどうか?健康・行動は社会にどう影響しているか?
患者さんをとりまく全体をありのままに捉えて、癒やしにつなげていく、治療の糸口を見つけるということだと考えています。
余談ですが、私、結構、星占いや風水とか好きなんです。さすがに治療に星占いや風水は用いてませんが、ひょっとしたら科学的に検証すれば星の運行を参考にしたケアや風水的な環境改善で健康状態が良くなることが判明することもあるんじゃないかと考えています。