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生物心理社会モデルを3つの分離した円で表すことへの違和感

2022/02/14

 家庭医療専門医になるためにはポートフォリオの提出が必要になっています。ポートフォリオとは簡単にいうと実績レポートのようなもので、困難な症例をいかに苦労しながら学びにつなげていったのかを記載します。 

このポートフォリオは専門医試験で重要で、勉強会が開かれたりしています。

この勉強会でポートフォリオの評価をすることがあります。エントリー項目で「生物心理社会モデルを利用した症例」というのがあります。この項目で時々、この生物心理社会モデルを3つの円で「生物」「心理」「社会」とわけて、重なるように描写されているのを見ることがあります。

わたしはこれはちょっと誤解しているなと考えています。

もともと生物心理社会モデル(bio-pshycho-social model: 以下BPS)はEngelという人が考えたものですが、私にはきちんとした文献はみつけられませんでした。治療成績の良い医師を分析するとこのモデルを利用していたというものだったと解釈しています。

『家族志向のプライマリ・ケア』(S.H.マクダニエル著)にも載っていますが、これには3つの円では表現されておらず、宇宙から原子まで矢印でつながっているように書かれています。

宇宙↔地球↔国↔地域↔家族↔個人↔臓器↔細胞↔分子↔原子

 私も家庭医療の専攻医だったころにポートフォリオの勉強会でこのような3つの円の図を書いていました。しかし、指導医からイメージとは違うと言われ、確かに違うよなと思うようになりました。どちらかというと、全部が連なっているような『家族志向のプライマリ・ケア』に描かれているようなイメージが近いかなと思っていました。

でも、偉い先生方の表現に反抗するようですが、今はこれにも違和感を覚えています。

直線的なつながりではなく、どちらかというともっと包括的な見方のように思うのです。

社会(単純化のために宇宙や地球もここに含まれるものとする。)の中に生物が内包されていて、さらにその中に心理が内包されているようなイメージです。なので、心理は臓器と同等かやや上位くらいのイメージです。

このイメージでいくと、生物にもっとも影響を及ぼすのは社会になります。

実際に社会の変化で人間の行動は変ります。行動がかわれば健康状態もかわります。

例えば、たばこ税があがれば禁煙する人は増えます。富の格差がひろがれば平均寿命は縮まります。それは一個人の行動以上に個人に影響をもたらします。

そして、心理はなぜ生物の内側なのかというと、心理なくしても生物たりうるからです。逆に生物の部分がなくなれば心理は存在できません。

それは逆方向に行くと地球がなければ、人間は存在できない(今のところ)というような感じです。

つまりBPSを利用した問題解決とは、かなり包括的というか、もっと全体的な見方をしているということだと考えます。

それは季節の移ろい、太陽と月の周期、社会情勢、文化、風俗、医師である自分自身も含めた患者さん周囲の状況、そして患者さんの行動や健康にどう影響しているか?心理にどう影響しているのか?経験を含む心理あるいは他臓器と健康・行動との相関はどうか?健康・行動は社会にどう影響しているか?

患者さんをとりまく全体をありのままに捉えて、癒やしにつなげていく、治療の糸口を見つけるということだと考えています。

 

余談ですが、私、結構、星占いや風水とか好きなんです。さすがに治療に星占いや風水は用いてませんが、ひょっとしたら科学的に検証すれば星の運行を参考にしたケアや風水的な環境改善で健康状態が良くなることが判明することもあるんじゃないかと考えています。

 

寄り添う医療ってなんやねん!? 2

2021/09/08

前回、「寄り添う医療ってなんやねん!?」を書きましたが、大事な医療の部分を書くことを忘れていました。

「寄り添う医療」はEngelの提唱した生物心理社会モデルに基づいた診療、医療ではないかと思います。

それが技法化されたものが、モイラ・スチュアートの「患者中心の医療の方法」だと思います。

他にも「(患者さんに)寄り添う医療」と思われる方法論としてS.H.マクダニエルの「家族志向のプライマリ・ケア」や地域志向ケア、Evidence Based Medicine(以下EBM)、Narrative Based Medicine(以下NBM)などがあります。

Advance Care Planning(ACP)も「寄り添う医療」になると思います。

共通して言えることは、

患者さんの病態・生理学的な状況を診断する。

そして、患者さんのこれまでの文脈を理解する。文脈とは家族背景であったり、置かれている環境、これまでの患者さんの体験・歴史、今どういう思いでいるのかを理解する。

現在の科学的根拠に基づいて選択肢を提示し、最良の選択をしてもらう(する)ことだと言えます。

注意点として、最良の選択とは科学的根拠に基づく、医学的に最善の選択肢と一致することは多くても、必ずしも一致はしないということです。

 

例えば、肺がんになったが喫煙をやめられず、もう余命は数ヶ月と考えられる方に、本人にタバコをやめたい気持ちがないのであれば、タバコは吸い続けることを選択するということです。

ニコチン依存症は病気ですので、やめればタバコから開放され楽になります。しかし、正直、ある程度、やる気が必要です。余命いくばくもない方にそこにやる気を出してもらう必要は本当にあるのか?ということです。

 

いかがでしたでしょうか?こういった理由で「寄り添う医療」という表現は曖昧で、他に相当する適切な表現があるので私はそちらを選んで使うようにしています。

参考図書

寄り添う医療ってなんやねん!?

2021/09/07

コロナ禍のためか、在宅診療のご依頼をたくさんいただいております。

定期的に在宅診療を行う方は大抵、看取りも考慮に入れた診療を行うことになります。

そこでよく大切にされていることとして、出てくる表現で『寄り添う』という言葉があります。

私はこの『寄り添う』というのが、あまり好きではなりません。なぜか。

それは具体的な行動を表していないように思え、ただの心意気を表現しているのに過ぎないのではないかと感じるからです。違う例えでいうと「やる気あります」と言うのと似てますかね。やる気があっても、相手に伝わらない、うまく成果をあげられなければ、本当にやる気あるの?口ばっかりだねとなります。本人にやる気は満々なのに。

寄り添うも非常に曖昧で、こちらは寄り添っているつもりでも患者さんには寄り添ってもらってないと思われたら、もう、それはこちらが寄り添ってますと言っても、寄り添っていないです。

だから、私は患者さんに「寄り添った医療をします」とは申しません。

でも、患者さんに寄り添った医療をしてくれていると有難いお言葉をいただくことがあります。

では、どうすれば寄り添っていると感じて貰えるのか?

私が考えるには、共感を示すということがとても大切と考えています。

共感を伝えるにはどうすれば伝わるか?

それはいくつか方法があると思いますが、使い古されたコミュニケーションスキルですが、効果的な方法を3つあげます。

①表情を真似る。

②おうむ返しする。

③読心術を使う。

です。

①は表情を真似ることですが、辛い時に同じように辛そうな顔をすると、実は最初はこちらは全然辛くなくても、やがて少しだけ同じように辛い気分を味わえます。

②相手の言葉をしっかり聴いて、キーになるような言葉をおうむ返しすると共感してもらえていると感じてもらえます。

③実際に心を読める訳ではないですが、推測することはできます。そこで、相手の感じていることをうまく代わりに表現すると、理解してもらえているという気分になります。違っていても構わないです。理解しようと努力していることを伝えることが必要です。また、違っているかもしれない対策として、「悲しいですね。」というよりも「悲しかったのですか?」と疑問系にすると、あっていればそうですと返って来ますし、違っていればそうではなくてと説明してくれると思います。

上記はそれぞれ小手先のスキルのように見えますが、実はちゃんと相手の話を聴き、表情や呼吸を観察しないとできません。また、患者さんのこれまでの歴史を理解することも役に立ちます。

共感を示さなくても、患者さんの癒しにつながる方法もあります。それはただそこにいるだけという方法です。

これはご家族だからできる方法です。でも、結構難しいです。家族だから、介護者だからなんとかしてあげたくなります。励ましたくなります。

それもいいと思います。

でも、何も具体的にしてあげられることが何もないという場合、ただ愛する人がそばにいるだけで癒しになります。

それが本当に「寄り添い」だと思います。

参考図書

 

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