私たち、家庭医・総合診療医の外来は子供から大人まで幅広く診療しており、年齢で言うと特徴的なのは思春期の方々を診るのが得意は言わないまでも苦手意識が少ないです。
大人でも子供でもない思春期。思春期に多い悩み、病気があります。代表的な症状だと不登校があります。その原因として多い病気は朝起きられない”起立性調節障害”というものがあります。これは体は大きくなったにも関わらず、血圧を上げる力が弱くて、朝、寝ている状態から立ちあがろうとすると血圧を上げきらず、頭痛や腹痛などが生じたりする病気です。このために学校に行けなかったり、遅刻したりするようになったりします。
また、過眠症やうつ病の症状であったり、うつとは言わないまでも人間関係がつらくて学校に行きづらいために頭痛や腹痛が生じることもあります。
学校自体は辛くないし、家族・友人関係も良好だけど、自分にも理由がわからないけど、学校に行きたくない。という場合もあります。
こう言った方々のお話をじっくりお聴きし、重度のうつ病やその他の精神疾患がありそうなら精神科へ紹介します。しかし、思春期専門の精神科の予約が取れるのが3ヶ月〜半年先だったりするので、それまでの間、我々でなんとかフォローを行なっていきます。
ほとんどの場合は時間経過とともに良くなっていきます。それは体が成長したことであったり、周りの環境が変わったり、いっそ学校をやめてしまって、通信制の学校に転校するなどがきっかけであることもあります。
また、大人の皆さんは経験あるでしょうが、思春期は夜更かしししたくなる傾向にあります。そのため、生活が不規則になりがちです。人間は10代の頃から20代くらいまで夜型になる傾向にあるとも言われています。なので、無理に早寝早起きする必要はないですが、生活リズムを整えることが改善につながることも多いです。
人間関係で悩んでいる時はコミュニケーションスキルを指導することで良くなることもあります。これは実際に診察室でロールプレイのようなことをすることもあります。
ここで一例を紹介します。
ある16歳の女性Aさんはサッカー部のマネジャーをしていました。学校に行けないというのです。信頼関係を築き、じっくり話をうかがうと、どうもサッカー部の特定の男子部員から「ブス」などと言われるということが辛いということでした。
私は「その男の子、本当はAさんのこと好きなんやと思うよ。だって、ほんとにブスと思ってて嫌いだったら、わざわざ言わんでしょ。無視してるか無関心なはずやで。」と少し励ましも込めて、推測を伝えました。
そしてさらに「ブス」などと言われることをやめてもらうための非暴力コミュニケーション(Nonviolent communication: NVC)という方法をお教えしました。NVCはとても簡単な構造で練習すれば誰でも可能です。伝え方に順序があり、
①事実
②自分の感情
③必要としていること
④具体的にしてほしいこと
の順に伝えます。この場合だとAさんは
①「ブス」と言われる。(事実)
②辛い、悲しい、傷つく(感情)
③楽しい学校生活を必要としている。または仲良くなりたい。楽しい部活。など(必要としていること)
④「ブス」と言わず、代わりに普通に挨拶や「ありがとう」と言ってほしい。または「かわいい」と言ってほしい。
これを一つの文章にすると。
「あなたにブスと言われたら、私はすごく悲しい。私は楽しく部活をしたい。だから、「ブス」とか言わないで、普通に挨拶とかありがとうと言ってほしい。」
となります。これを指導後、Aさんは早速やってくれたようで、男子生徒から心無い言葉を言われるのはなくなり、諸症状が改善されたということで、当院への通院は終了となりました。
NVCは大人でも普段から練習、使用していないとなかなか使えないですが、他人に要求を伝える非常に役立つコミュニケーションスキルなので知っておいて良いと思います。
思春期のお子さんの扱い、特に異性のお子さんの場合は親として、とても困惑することが多いです。そこに不登校や身体症状があるとさらに困りますね。そうした場合は一度、家庭医・総合診療医にご相談してみてください。
比較的若い女性が風邪や頭痛などで受診された時に、生理は辛くないか?と聞いてみると、生理のたびに痛み止めを飲んでいるという答えが返ってくることがあります。日常生活も辛いくらいの生理を月経困難症と言います。
また、貧血で受診される女性のほとんどは生理の出血量が多いことです。これを過多月経と言います。
どちらも非ステロイド性抗炎症薬(ロキソプロフェンやイブプロフェンなど)は良い鎮痛剤です。また、定期的な運動や生姜、魚油、ビタミンB1、亜鉛などのサプリメントの摂取は有効かもしれません。そしてどちらも、妊娠を望んでいないのであれば低用量ピルの内服はとても有効な治療法です。
低用量ピルの内服ときいて、あまりいいイメージを持たない方もいらっしゃいます。低用量ピルの副作用には吐き気や倦怠感、頭痛、不正出血などがあります。また、重大なものでは喫煙者に特に静脈血栓症になりやすいというものがあります。
逆に妊娠しなくなり、生理の痛みを軽くしたり、出血量を減らすだけでなく他にもいくつか良い点があります。それはニキビの改善、骨密度の改善、子宮体がん・卵巣がん・大腸がんのリスクを減らします。また、月経前の不快な気分を抑えてくれます。
月経困難症や過多月経の原因がなんであれ、内診なしで低用量ピルを処方することは可能なのでお気軽相談していただきたいと思います。
ただし、過多月経が良くならない場合は出血しやすい病気などの存在やがんの存在(特にリスクの高い方)が疑われるので専門医にきちんと調べてもらう方が良いでしょう。
とはいえ、ほとんどの方がそういった病気をお持ちでないので、現在、妊娠を希望しておらず生理が辛い、貧血に悩まされている女性の方はピルの使用をご検討されて良いと思います。
最後にピルを飲んでいる間は99%妊娠しませんが、梅毒やクラミジア、HIVなど性病の予防はできないので、性交渉するときは必ずコンドームを着用するようにしましょう。
先日の「ケアとまちづくり未来会議」で印象に残った言葉の一つ「リミナル(境界、中間的なという意味)」。われわれ、家庭医の仕事はこの「リミナル」を得意としているなと感じました。
家庭医の専門性の一つに「未分化な健康問題を扱う」というものがあります。未分化な健康問題とはまだ診断がつけられないような状態、症状のことです。あるいは大人でもない子供でもない思春期もリミナルですね。または妊娠中もそうかもしれません。これから親になるけど、まだなっていない状態です。
未分化な健康問題は実は頻繁に出会います。家庭医で扱えるのは軽度の状態ですが、生活に障害が出ていて重度であれば、疑わしい専門科に紹介します。それでも診断がつかない、あるいは日常生活に支障があるというほどではないが、気になるといった状態でも家庭医で扱います。
継続的に長期間診察していくと、診断がつくこともあります。もちろん、そうでない場合もあります。こうした曖昧な状態を曖昧なまま診ていく。これができるのが家庭医の強みの一つであります。
診断がつかず、治療法もなく、不快な思いが続き、その症状が医療で解決できなかったとしても、患者さんの症状や思いを聴きながら、試行錯誤しつつ付き合っていくことができる。それが家庭医の強みの一つです